Paper-Chase's Prayer

コンサル&外資系金融での実務経験をもとにビジネス・仕事術系の雑感を書いていきます。

「パワポ読み上げプレゼン」は聴衆の理解力を28%、創造性を79%下げる

英語学習の一環で、現在こういう洋書を読んでいます。

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訳すと「脱・箇条書きプレゼン」といったところでしょうか。2006年のベストセラー「ハイ・コンセプト」の中で紹介されていました。本書も(アメリカで)ヒットし、中国語や韓国語、ロシア語などに翻訳されていますが、あいにく日本語版は出ていません(多くの日本企業が実践すべき内容だと個人的には思うのですが…)。

著者はコミュニケーションのコンサルタントアメリカ空軍、スタートアップ企業、MBAなどのキャリアを経て、旅行先のフランスで出会ったガイドのストーリーテリングの素晴らしさに触れ、スピーチとビジュアルのあるべき関係を考えていくようになります。

その後、著者は超大手企業の社内コミュニケーション改善に携わったり、ある弁護士に依頼され、陪審員向けの説明資料の作成に携わるなどしています(訴訟相手の製薬企業の弁護士が難解で退屈なプレゼンをしたのに対し、著者側の弁護士は明快かつ魅力的なストーリーで勝訴をもたらしています)。

私もまだ2割程度しか読んでいませんが、ぜひ共有しておきたいトピックがありましたのでここに記します。

 


 

我々はプレゼンで脳で情報を受け止めるとき「目」と「耳」を使います。視覚(Visual)と言葉(Verbal)の2つのチャネルがあるわけです。

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直感的には、この2つに同じ情報を流したほうが理解が促進される気がします。たとえるなら「お風呂に水を貯めるうえではパイプ1本から送るよりも2本で流し込んだほうが早い」ということです。

しかし実際には"Redundancy Effect"(直訳すると「冗長効果」?)というものがあります。これは「同じ情報を2つの経路で送られると、脳(ワーキングメモリ)の処理機能に負担をもたらす」というものです。つまり、理解度が下がるのです。

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お風呂の水のように混ざってもよいものならパイプ2本で送っても問題ありません。しかしここで送ろうとしているのは「情報」です。「2人の人が同時に同じ内容を話す」場面をイメージしていただければおわかりいただけると思いますが、たとえ内容が同じでも意識が両方に分散してしまうのです。

 そんなふうに意識を分散させる行為が、世の中の多くのプレゼンシーンでは起きています。たとえばこういうスライドを投影しつつ内容を説明した場合。

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投影された瞬間、聞き手はそこを読みにいきます。そして同時にプレゼンターが同じ内容を口で読むわけです。

読み上げの音声を作ってみたので上記の再生ボタンを押して聴きながら上記スライドを読んでみてください。音声が邪魔に感じるはずです。

 

「スライドの内容=話す内容」なプレゼン、つまり「箇条書き読み上げプレゼン」は聴衆の理解度を落とすのです。本書によると、ある学者が実験したところ、

「文字スライドと音声を同時に流したプレゼンを聞いた聴衆と、そこから文字情報を取り除いたプレゼンを聞いた聴衆とでは、後者のほうが情報を28%多く(脳内に)維持し、その情報を創造的な問題解決に79%多く活用できた

とのことです。

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「スライドの内容=話す内容」なプレゼンを避けるためには、どちらかを少なくする必要があります。しかし、プレゼンターが話さない、スライド主役のプレゼンはそもそもプレゼンではなく、だったらメールで送ってよ、となります。

したがって「スピーチをメインとし、画像と最低限のテキストを含んだスライドでそれを補強する」というスタイルを本書では推奨しています。

似たところで「無駄がなくシンプル、かつ本質をついたスライドデザイン」を提唱する「プレゼンテーションZen(禅)」という本があり、私もこれに強く影響されており、可能な限り、たとえばこういうスライドを取り入れています。 

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プレゼンテーションZEN 第2版

プレゼンテーションZEN 第2版

 

こうすると、やはり聴衆とのアイコンタクトが促されます。話を聞いてもらえるようになります。聴衆がスライドばっかり見てしまっているプレゼンはやはり寂しいです( ̄∀ ̄)。

なお、「箇条書き読み上げ」をしないプレゼンでは、当然、話す内容を覚えてプレゼンに臨む必要があります。内容を覚えるくらいに練習しておくことがプレゼンターの責務ではありますが、ちょっとそれは大変というのであれば、パワーポイントなら「発表者ツール」で自分だけ手元で原稿が見えるようにしておくのも一案です。

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本書はこの後、具体的なストーリー作りの話に進んでいきます。私も楽しみにしていますが、また役に立つ情報があれば、本ブログで紹介したいと思います。(以上)