Paper-Chase's Prayer

コンサル&外資系金融での実務経験をもとにビジネス・仕事術系の雑感を書いていきます。

ロジカルシンキングの敗北

数日前、この記事が話題になっていました。

togetter.com

ブラック系コンビニオーナーと雇われ店長の攻防の話で、もうとにかく「これはひどい」としか言えない内容で、リンク先のマンガをぜひ読んでいただきたいのですが、記事タイトルにもなっているこの(ブラックオーナーの)発言を目にして、思うところがありました。

労働基準法なんて関係ないよ。だってその法律、経営者が損するばっかじゃん」

僕は研修やセミナーでロジカルシンキングを教えたり、少し本で書いたりもしていますが、この手の発言をする人には論理的な説明や説得が通用しないんですよね。たとえば

「いや、労働基準法を守らないと罰せられる可能性がありますよ」
「立ち入り調査や勧告によって業務が止まったりイメージダウンのリスクがあります」

などと言えば論理的(というか常識的ですが)な反論になります。しかし、そうしたところで

「そんなの知るか」とか、
「だから俺には関係ないんだってば」とか、
「そのときはそのときだ」とか、
「屁理屈言うな」

といった謎の返事が返ってくるだけでしょう。

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リンク先の記事の店長は、「労働基準法なんて」の発言を受けて呆気にとられてフリーズ(そして退職を決意)します。こういうナナメ上の主張をする相手には、マトモな説得は通じません。何を話しても徒労に終わります。

「この人には何を言っても無駄」
「この人には関わらないほうがいい」

よほど粘り強い人でない限りは、そう考えて説得や対話を諦めるでしょう。ナナメ上の人には論理や合理は通じない。僕はそれをロジカルシンキングの敗北」と呼んでいます。

ここ最近、ボクシングや体操の不祥事が社会問題になりました。またスルガ銀行など組織ぐるみの不祥事も起きています。推察するに、そういった組織のトップは高い確率で「通じない」タイプの人間だったのではないかと思っています。

最初は周囲が論理的合理的に提言・忠告する。しかし、ナナメ上のロジック(?)で潰される。だから心ある人ほど離れていきイエスマンだけが残る。そうして迷走・暴走する組織ができあがる。

ロジカルシンキングは大変有用なスキルです。実際、僕がいたコンサルティング会社や現職の金融機関では「根拠を持って話す」「事実と意見を区別する」「情報をモレなくダブりなく整理する」といったロジカルな姿勢を持っていなければ仕事は成り立ちません。

自分がいた組織では幸いにして多くの人がこれを習得していたので、大抵の場合、議論はスムーズにいきました。ロジカルシンキングはスキルではなくて言語である」と私は考えていますが、ロジカルシンキングという共通のプロトコルがあれば、たとえ対立や交渉の瞬間であっても建設的に話を進めることができます(まー、ロジカルシンキングができなくても「相手を尊重する気持ち」さえあればあまり変なことにはならないんですけどね)。

しかし時おり、「通じない」相手に出くわすこともあります。前述のような威圧的・暴君的なタイプのほか「ケムマキ君」(噛み合わない会話で煙に巻くタイプの人)も、とにかくエネルギーを使うのでやりとりを避けたくなるタイプです。

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ロジカルシンキングは、書籍やセミナーでも「戦略コンサルタントの最強の武器!」「ビジネスパーソンに不可欠な問題解決ツール!」みたいに煽るので、それさえ身につけば万能薬を手に入れたも同然みたいに捉える方も時たま見受けられます。

しかし、ある種の相手には別のアプローチが必要になるという意味で、ロジカルシンキングを学ぶ人に対して、それは万能ではないことを念押ししたほうがよいのではないかと私は思っています

別のアプローチというのは、たとえば「上の上から攻める」(例:課長に問題があるのならその上の部長に動いてもらう)こともあるでしょうし、「逃げの一手」もありえます。自分の精神衛生の維持や本来の能力の発揮のため、あるいは不祥事やトラブルに巻き込まれないためにも、「ロジカルが通じる環境に移る」のは妥当な手段、まさに「逃げるは恥だが役に立つ」です(同時に、かくして「憎まれっ子世にはばかる」が実現するわけですが)。

 ロジカルシンキングを教えるのは難しいので、教える側の私としてはたいていそれで力尽きてしまうことが多いのですが、それはあくまで車輪の一方でしかないんだよな、ということもちゃんと伝えておかねばと、このブラックオーナーのような話を聞くたびに改めて思うのです。