高年収で一流の最強ビジネスパーソンはなぜ「記憶力」を大切にするのか
記事タイトルは東洋経済オンライン風に悪ふざけしてみた。「一流」とか「最強」とか乱発すると、逆に頭悪い感じになりますね。
さて、頭悪い・良いといえば、子供の頃は「頭が良い」とは「記憶力が良い」とほぼイコールでした。日本の受験は「詰め込み教育」「知識偏重」などと揶揄されますが、高校受験や大学受験では「記憶力」が求められ、私も合格するために(小論文などもあったものの基本的には)膨大な単語や公式を頭にインプットし続けた覚えがあります。
それが社会人になると様相が変わり、「創造的思考力が大切だ」とか「論理的思考が必要だ」などと言われるようになってきます。受験とビジネスとでは求められるものが異なるのでそれも当然ではあるのですが、私は仕事を進めるうえで「記憶力」は引き続き重要な能力の1つであると考えています。
私は「論理的思考(ロジカルシンキング)」について研修で教えたり、自著で解説したりしていますが、実は論理的思考を活用するためには「記憶力」が不可欠なのです。
その理由は、「論理的」とは要は「根拠を持って主張する」ということですが、根拠となる情報は「人の記憶」から引き出されることがあるからです。以下、自著より引用します。
晴れた日に出かけようとしたら、家族から「傘を持っていきなさい」と言われたとします。それだけでは、おそらく「どうして?」と言いたくなるでしょう。しかし、「夜の降水確率が90%もあるから、傘を持っていきなさい」と言われたらどうでしょうか。きっと「それなら持っていこうか」となるはずです。
この例では「傘を持っていきなさい」という主張を受け入れてもらうために、「降水確率が90%」という根拠を示したわけです。このように、何かを主張したいのであれば、データや情報による「根拠」が必要になります。
仕事も同じで、「○○をやるべきだ」と叫ぶだけでは、熱意は伝わるかもしれませんが、周囲はGOサインを出してくれません。なぜ○○をやるべきなのか、納得のいく根拠を示す必要があります。
この「降水確率90%」にあたる情報(根拠)は、仕事では人から入手したりネットで見つけたりするほかに「自分の頭の記憶をたどる」ことが多いはずです。
たとえば私の目撃談(デリケートな話なのでいろいろフェイクを入れます)。
ある部署において「管理職が足りなくなってきたので1人課長に昇進させたい。山下さん(仮名)はどうか」という話になりました。現部長や課長が集まって話し合い、「勤続年数も長く、成果もそこそこなのでよいのでは」とのことで満場一致で課長に昇進させました。
しかしその2ヶ月後、山下課長は部下に対するセクハラとパワハラ問題を同時に引き起こし(いわゆる「セパ両リーグ制覇」)、すぐに降格させられました。
当然、社内では「なんであんなやつを昇進させたんだ」「見る目なさすぎ」といった会話が飛び交うようになり、その部署および部課長達に対する評判は一気に揺らぎました。
実は兆候はあったのです、半年ほど前にも、山下さんはプチパワハラ的なトラブルを起こしていました。ただ、そのときは程度が軽かったこともあり、それほど大きな話にはなりませんでした。しかし、その時のことを部課長の誰かが思い出していれば、「彼は以前トラブルがあったようだから、ちょっと様子を見ませんか?」と言えたはずです。
主張「山下さんの昇進は様子を見るべき」
→根拠「以前プチパワハラを起こしたから」
…と誰かが主張すべきだったところ、その根拠となる情報が忘れ去られていたため、主張できなかったのです。
同様のミスは他にも見られます。たとえば他部署ですでに同様のプロジェクトが走っていてそれを知っていたにも関わらず、重複したテーマのプロジェクトを立ち上げてしまい大いに作業のムダが発生した、という失敗を目にしたことがあります。それも「忘れていた」ことが原因で引き起こされた判断ミスです。
主張「○○のプロジェクトはやるべきではない」
→根拠「他部門のプロジェクトと重複しているから」
…と誰かが主張すべきだったところ、その根拠となる情報が忘れ去られていたため、主張できなかったのです。
ここまで大きな失敗はそうそうないかもしれませんが、たとえば報告書などの文書作成において、上司から「XXXの件は考慮に入れているのか?」などとツッコまれ、「あ、忘れてました…」みたいなミスはどなたにもあるのではないでしょうか。
このように、記憶力を軽視すると、見落としてはいけない情報を見落として誤った判断を下してしまったり、仕事の品質が落ちることがあります。逆に、たしかな記憶力を持っていれば、判断ミスや品質低下を避けたり、より説得力を持った話し方ができるようになります。
創造性や論理性もたしかに社会人の必須スキルですが、かといって「記憶力」を軽視してよい、というわけではないのです。
大きな会社になればなるほど、持っておくべき情報量はさらに増えます。たとえば私のいる会社は従業員1万人くらいですが約70件のプロジェクトが同時に走っています。もちろんすべてを詳細に把握することはできませんが、プロジェクトの内容や状況など、見聞きしたことをなんとなく押さえておく程度でも、助けられることがしばしばあります。
もちろん、私達は忙しいので、受験生のように毎日机に向かったり電車の中で単語帳を使って仕事の情報を頭に叩き込むなんてことはできません。また、そこまでする必要もありません。
代わりに、気になった情報や今後自分の仕事に関係してきそうな情報は専用のメモファイルを作って書き留めておく、そして時々読み返すようにする。それだけでも他の人よりもはるかに「記憶力がいい人」「他の人が見落としがちな情報を見落とさず、根拠をもって鋭く発言できる人」になれるはずです。
単なる「メモ魔」や「情報コレクター」ではいけませんが、それを自在に使いこなせるようになったとき、きっとみなさんは社内で「なくてはならない人」になっているはずです。
なお、記憶といえば、(中小企業診断士試験などの)資格試験にチャレンジして「大人になっても暗記かあ…」と嘆いておられる方も多いかもしれません。
しかし、ここまで述べてきたように「記憶する力」を拡大しておくことは間違いなく仕事において活かされてます。それを信じて資格の勉強に励むことで、暗記や記憶に対するモチベーションも高まるのではないでしょうか。