高年収で一流の最強ビジネスパーソンはなぜ「記憶力」を大切にするのか
記事タイトルは東洋経済オンライン風に悪ふざけしてみた。「一流」とか「最強」とか乱発すると、逆に頭悪い感じになりますね。
さて、頭悪い・良いといえば、子供の頃は「頭が良い」とは「記憶力が良い」とほぼイコールでした。日本の受験は「詰め込み教育」「知識偏重」などと揶揄されますが、高校受験や大学受験では「記憶力」が求められ、私も合格するために(小論文などもあったものの基本的には)膨大な単語や公式を頭にインプットし続けた覚えがあります。
それが社会人になると様相が変わり、「創造的思考力が大切だ」とか「論理的思考が必要だ」などと言われるようになってきます。受験とビジネスとでは求められるものが異なるのでそれも当然ではあるのですが、私は仕事を進めるうえで「記憶力」は引き続き重要な能力の1つであると考えています。
私は「論理的思考(ロジカルシンキング)」について研修で教えたり、自著で解説したりしていますが、実は論理的思考を活用するためには「記憶力」が不可欠なのです。
その理由は、「論理的」とは要は「根拠を持って主張する」ということですが、根拠となる情報は「人の記憶」から引き出されることがあるからです。以下、自著より引用します。
晴れた日に出かけようとしたら、家族から「傘を持っていきなさい」と言われたとします。それだけでは、おそらく「どうして?」と言いたくなるでしょう。しかし、「夜の降水確率が90%もあるから、傘を持っていきなさい」と言われたらどうでしょうか。きっと「それなら持っていこうか」となるはずです。
この例では「傘を持っていきなさい」という主張を受け入れてもらうために、「降水確率が90%」という根拠を示したわけです。このように、何かを主張したいのであれば、データや情報による「根拠」が必要になります。
仕事も同じで、「○○をやるべきだ」と叫ぶだけでは、熱意は伝わるかもしれませんが、周囲はGOサインを出してくれません。なぜ○○をやるべきなのか、納得のいく根拠を示す必要があります。
この「降水確率90%」にあたる情報(根拠)は、仕事では人から入手したりネットで見つけたりするほかに「自分の頭の記憶をたどる」ことが多いはずです。
たとえば私の目撃談(デリケートな話なのでいろいろフェイクを入れます)。
ある部署において「管理職が足りなくなってきたので1人課長に昇進させたい。山下さん(仮名)はどうか」という話になりました。現部長や課長が集まって話し合い、「勤続年数も長く、成果もそこそこなのでよいのでは」とのことで満場一致で課長に昇進させました。
しかしその2ヶ月後、山下課長は部下に対するセクハラとパワハラ問題を同時に引き起こし(いわゆる「セパ両リーグ制覇」)、すぐに降格させられました。
当然、社内では「なんであんなやつを昇進させたんだ」「見る目なさすぎ」といった会話が飛び交うようになり、その部署および部課長達に対する評判は一気に揺らぎました。
実は兆候はあったのです、半年ほど前にも、山下さんはプチパワハラ的なトラブルを起こしていました。ただ、そのときは程度が軽かったこともあり、それほど大きな話にはなりませんでした。しかし、その時のことを部課長の誰かが思い出していれば、「彼は以前トラブルがあったようだから、ちょっと様子を見ませんか?」と言えたはずです。
主張「山下さんの昇進は様子を見るべき」
→根拠「以前プチパワハラを起こしたから」
…と誰かが主張すべきだったところ、その根拠となる情報が忘れ去られていたため、主張できなかったのです。
同様のミスは他にも見られます。たとえば他部署ですでに同様のプロジェクトが走っていてそれを知っていたにも関わらず、重複したテーマのプロジェクトを立ち上げてしまい大いに作業のムダが発生した、という失敗を目にしたことがあります。それも「忘れていた」ことが原因で引き起こされた判断ミスです。
主張「○○のプロジェクトはやるべきではない」
→根拠「他部門のプロジェクトと重複しているから」
…と誰かが主張すべきだったところ、その根拠となる情報が忘れ去られていたため、主張できなかったのです。
ここまで大きな失敗はそうそうないかもしれませんが、たとえば報告書などの文書作成において、上司から「XXXの件は考慮に入れているのか?」などとツッコまれ、「あ、忘れてました…」みたいなミスはどなたにもあるのではないでしょうか。
このように、記憶力を軽視すると、見落としてはいけない情報を見落として誤った判断を下してしまったり、仕事の品質が落ちることがあります。逆に、たしかな記憶力を持っていれば、判断ミスや品質低下を避けたり、より説得力を持った話し方ができるようになります。
創造性や論理性もたしかに社会人の必須スキルですが、かといって「記憶力」を軽視してよい、というわけではないのです。
大きな会社になればなるほど、持っておくべき情報量はさらに増えます。たとえば私のいる会社は従業員1万人くらいですが約70件のプロジェクトが同時に走っています。もちろんすべてを詳細に把握することはできませんが、プロジェクトの内容や状況など、見聞きしたことをなんとなく押さえておく程度でも、助けられることがしばしばあります。
もちろん、私達は忙しいので、受験生のように毎日机に向かったり電車の中で単語帳を使って仕事の情報を頭に叩き込むなんてことはできません。また、そこまでする必要もありません。
代わりに、気になった情報や今後自分の仕事に関係してきそうな情報は専用のメモファイルを作って書き留めておく、そして時々読み返すようにする。それだけでも他の人よりもはるかに「記憶力がいい人」「他の人が見落としがちな情報を見落とさず、根拠をもって鋭く発言できる人」になれるはずです。
単なる「メモ魔」や「情報コレクター」ではいけませんが、それを自在に使いこなせるようになったとき、きっとみなさんは社内で「なくてはならない人」になっているはずです。
なお、記憶といえば、(中小企業診断士試験などの)資格試験にチャレンジして「大人になっても暗記かあ…」と嘆いておられる方も多いかもしれません。
しかし、ここまで述べてきたように「記憶する力」を拡大しておくことは間違いなく仕事において活かされてます。それを信じて資格の勉強に励むことで、暗記や記憶に対するモチベーションも高まるのではないでしょうか。
メリットやデメリットをもれなく整理するには「経営資源」に着目する
工場に新しい設備を導入するか見送るか。新規事業を立ち上げるかそれとも既存事業に専念するか。私たちのビジネスは「決断」の連続です。そして、判断のためには、それぞれの選択肢のメリットとデメリットをもれなく洗い出さねばなりません。
また、営業の仕事に携わっている方であれば、自社の商品を買うことのメリットをきちんとお客様に伝える必要があります。「実は、こういうメリットもあるんですよ」と言うことができれば、お客様も身を乗り出すでしょう。
このように「メリット(&デメリット)洗い出し力」は、多くのビジネスパーソンにとって必須のスキルとなります。
しかし、洗い出しのうえでは、ぼんやりと頭で考えていても整理し切れません。表の形で書き出してみましょう。(宣伝になりますが、ご興味のある方は「思考整理のキホン」P108をご参考ください)
洗い出しに不足があると判断ミスにつながります。メリットを見落として「メリットが少ないからこの選択肢はナシ」と判断してしまったり、逆にデメリットを見落として損の多い選択肢を選んでしまうことになります。
メリットやデメリットを見落としなく洗い出すには「経営資源」の観点をもっておくことをおすすめします。
経営資源とは「会社の持ち物」のことです。よく「ヒトモノカネ」といいますが、この3つは代表的な経営資源です。ある選択肢を採用することによって、売り上げが上がるのであれば「カネ」への好影響があると言えます。従業員のモチベーションが下がるなら「ヒト」への悪影響があると言えます。このように、メリット(デメリット)=「経営資源への好影響(悪影響)」と考えることができます。
よって、選択肢のメリットやデメリットを洗い出す場合には「ヒト、モノ、カネ」への影響はどうか、という観点で考えてみるとさまざまなアイディアが出てきます。具体的には以下のような要素が考えられます。
ただし、余力があれば「無形経営資源」にも着目してみましょう。「ヒトモノカネ」は目に見えるので「有形経営資源」と言われますが、目に見えない経営資源もいくつかあります。
たとえば「情報」。有益な情報を持っていれば経営を有利に進めることができますので経営資源の1つと言えます。他には「ブランド」「顧客との関係性(絆)」「ノウハウ」などがあります。
たとえば、ブラックな企業経営をすれば、一時的に「カネ」は増えるかもしれません。しかし、「ヒト」のモチベーションや離職率は悪化します。人材の入れ替わりが激しければ「ノウハウ」も溜まりませんし「顧客」を連れて逃げる社員も出てくるでしょう。また、新聞沙汰にでもなれば「ブランド」イメージが下がります。このように企業の行動はさまざまな経営資源に複雑に影響を与えるのです。
慣れないうちは上記の有形・無形経営資源をリスト化して見ながら考えるようにすると、漏れが少なくなると思います。メリットデメリットの洗い出しにおいてはぜひ参考にしてみてください。
自著の宣伝。こちらの記事↓もご参考ください。
誰もがPCで毎日数回は実施している、本当は要らない手順(とそれをやめる方法)
■「ゴミ箱に移動しますか?」のムダ
パソコンを使っていて「要らなくなったファイルを捨てる」という操作はどなたも一日何回かやっていると思います。
ファイルを選んでDeleteキーを押すと、ゴミ箱に移動することができます(今までファイルをゴミ箱にドラッグしてた方は時間をムダにしています。ぜひDeleteキーでの削除を習慣づけましょう)。
で、削除しようとすると「このファイルをゴミ箱に移動しますか?」と確認のダイアログが表示されます。しかし、これって本当は要らないと思うんです。
なぜかというと、誤ってファイルを消去して戻せなくなってしまわないようにWindowsやMacでは「ゴミ箱」という素敵な概念があるわけです。誤って消去しても、ファイルは一時的にゴミ箱内にあり、必要なら元に戻すことができます。
このように誤操作への対策がなされてるわけなのに、なぜいちいち「ゴミ箱に移動しますか?」と聞くのでしょうか。慎重といえば慎重ですが、私には二重のフールプルーフ(予防策)はムダなように思えます。
■確認のダイアログを出さない設定にする
ということで私は、この確認のダイアログを出さない設定にしています。設定方法は、ゴミ箱を右クリック→プロパティを選ぶと、設定のダイアログに「削除の確認メッセージを表示する」というチェックがありますので、これを外します。
これを知ってから数年はこの設定にしていますが、私はそれで困ったことは一度もありません。繰り返しになりますが、誤って消去しても、ゴミ箱から戻せばよいわけです。(余談ですが、消去した直後なら"Undo"(Ctrl+z)ですぐに元に戻すことができます)
今まで何万個とファイルを捨ててきたと思いますが、その数だけダイアログ→「はい」の手間を浮かしてきたわけです。1回につき1秒だとしても、トータルで数万秒の削減です。
また、「いちいち確認してこない」ことの快適さは、この手の設定を活用されている方ならお分かりかと思います。業務中に矢継ぎ早にファイルを作ったり操作したりしていく中で、仕事の流れをいちいち止めずにスピード感をもってテンポよく作業を進めることができます。これが、ショートカットキーやこういった設定の最大のメリットです。
※補足:なお、私は絶対に今後使わないファイルを削除するときは[Shift+Delete]で削除しています。これは、ゴミ箱をすっ飛ばして削除します。
ゴミ箱に入っている状態では、復活できる分、当然にハードディスクの容量を使いますが、[Shift+Delete]によって、ハードディスクの容量を使わずに済みます。逆に復活できないというデメリットがありますので、ここだけは慎重な操作が必要になります(上記の設定をしていても、さすがにこっちの場合は確認のダイアログが出てきます)。
自著の宣伝。こちらの記事↓もご参考ください。
Excelファイルの受け渡しで「気が利かない奴だ」と思われないための5つの注意点
研修やセミナーで「Excelによる作業の効率化」について教えることがあります。以前にも某大手金融機関の方を対象に講演させていただきましたが、毎日の作業で面倒に思っていた処理を瞬時に済ませるショートカットキーを知ることができたりと、おかげさまでかなり喜んでいただきました。
ところで、Excelの効率化は「個人」と「個人間」の2つの視点から考える必要があります。
まず「個人」は、新しいショートカットキーや機能、関数などを知ることによって、個人の作業速度を上げていくという視点です。私のセミナーでもこれが大部分ですし、これらのノウハウを解説した書籍やサイトも多く用意されています。
ただ、もう1つ忘れてはならないのが「個人間」の視点、つまりExcelファイルを人から人へ受け渡す際に気をつけるべき点や工夫すべき点がある、ということです。みなさんもファイルを受け取ったときに困ったことやトラブったこと、手間取ってイラっとしたことがあるかも知れません。
後ほど事例をご紹介しますが、ここを上手くやらないと数十分とか、場合によっては数時間のロスにつながることもあるのです。また、そのロスの原因である作り手に対して「気の利かないやつだ」という評価が下される可能性もあります。
本稿では「Excelファイル受け渡しでタイムロスあるある」を5つ挙げていきます。皆さんのチームの中で共有し、意識していただければ、いくらかのロスを避けられるはずです。
①複数のシートを使っている場合には、その旨を確実に伝えておく
私の失敗談です。プロジェクトで一緒のAさんに、あるデータの準備を依頼し、それが送られてきました。しかし、お願いしたはずのデータが見当たりません。メールや電話でAさんに問い合わせたのですが、Aさんは会議中だったり外出中だったりでなかなかつかまりません。その間、必要な作業を進めることができず、イライラします。
数時間後、ようやくつかまったAさんから返ってきた答えは
「あ、そのデータならSheet2にあります」
というものでした。そんな経験が何度かあって、いまでこそ私は受け取ったファイルのシートをすべてチェックするようにしています。しかし、そういう経験がなかったり、別シートの存在をつい忘れたりすると、このようなドツボにはまります。(ちなみにシステム開発プロジェクトの遅延は、こういったくだらないコミュニケーションのロスの積み重ねで起きていたりします…)
複数のシートを使う場合には、メール本文やファイル内で「XXXのデータは"XXX"シートにあります」などと記載しておきましょう(記載しても見落とす方が時々いるので目立つ色や大きなフォントで絶対に見落とされないように!)。
また、シート名はデフォルト("Sheet2")では何も入っていないシートと誤解されがちなので、適切な名称を設定(&タブの色を変更しておくとより目立ちます)しておきましょう。
②行や列の非表示は使わない
不要な列や行を非表示にしている方を見かけますが、これも見落とされがちです。たとえば下図の場合、国語60点、数学70点なのに合計180点となっています。実はD列が非表示になっており「英語50点」というデータがあるのです(Excelの仕様上、非表示にされていることはほとんどわかりません。下図のとおりC列とE列の間の線がわずかに太くなっているだけです)。
それに気がつかなければ、なぜここの計算が合わないのか延々と悩むでしょう(①と同じで、作成者に聞いても連絡がつかず作業が進められないという事態も起こりえます)。最悪の場合、180の部分を130に直してしまって、シートの計算が合わないファイルを作ってしまう、ということもありえます。お金が絡んだシートなら、それが原因で誤請求や支払いミスの発生も考えられます。
行や列の非表示は基本的に使わない、やむを得ず使うのならその旨を相手に漏らさず伝えておくことが必要です。
③文書を作ったら、送付前に印刷プレビューを確認しておく
仕事でさまざまな会社に関わってきましたが、私の感覚では8割くらいの方が、資料が完成したことで満足してしまうのか、印刷設定まで意識が及んでいません。
ですので、受け取ったファイルをうっかりそのまま印刷してしまうと、A4で横2ページに切れた表が印刷されてしまう、といったムダが起こります(縦に5ページなら合計10枚のムダな紙が生まれます)。時間だけでなく貴重な紙資源もロスしてしまうわけです。
「家に帰るまでが遠足です」という校長先生の名言がありますが、「印刷設定するまでが資料作成です」と肝に銘じておきましょう。
④ページ数の多い会議資料はフッターにページ番号を仕込んでおく
ページ数が多い資料で、かつ会議で使われる場合には「いまどこのページの話してるんだっけ?」というふうに読み手が迷子になりがちです。
そのような場合には「フッター」(シートの下端)にページ番号が表示されるように設定しておきましょう。そうると「それでは5ページ目をご覧ください」というふうに、会議が円滑に進められます。シートに行を追加・削除しても自動的に適切なページ番号に設定される点も手書きでページ番号を入れるのに比べて便利だと思います。
なお、複数の文書を会議で用いる場合には、フッターに「ファイル名」が表示されるように設定しておくと、よりわかりやすくなります。
⑤カラーを使う場合は同じ明度の利用を避ける
私たちが使うパソコンは当然カラーですが、印刷は白黒(グレースケール)という会社が多いと思います。カラー印刷はコストが高いので、私がいた会社でも、お客様向けに渡す資料などを除いては原則として白黒、とされていました。
その場合、パソコンの画面では色の違いを出していたのに、白黒では同じになってしまうことがあります。たとえば下図のような「水色」と「ピンク」。違う色どうしですが、白黒では同じような薄いグレーになります。これがグラフや条件付書式などで使われると、違いがわからなくなります。
よって、複数の色を使う場合で、白黒印刷される可能性がある場合には、明度が大きく異なる色を設定しておくことをオススメします。上図の3段目のように、塗りつぶしの設定から「テクスチャ(模様)」を選ぶこともできますので、これらを使うと、より確実だと思います。
まとめ
- 複数のシートを使っている場合には、その旨を確実に伝えておく
- 行や列の非表示は使わない
- 文書を作ったら、送付前に印刷プレビューを確認しておく
- ページ数の多い会議資料はフッターにページ番号を仕込んでおく
- カラーを使う場合は同じ明度の利用を避ける
以上5点を挙げました。
これらだけでも意識することができれば、チーム内でのファイルのやりとりにおいてタイムロスを減らせるはずですし、また、「お、ちゃんとページ数を設定してくれてて、気が利くなあ」などと周囲から認めてもらえるようになるはずです。
仕事上の多くのコミュニケーションミスは「お互いの都合の良い解釈」から生まれるという事例
実話にややフェイクを入れて語ります。
営業部で事務を担う稲垣さんは、部内の営業担当者30名から、毎週末に週報を提出してもらい、とりまとめて部長に送付することになりました。
月曜~金曜の活動内容をまとめ、金曜の夕方に提出です。
そのため、稲垣さんは毎週水曜日に提出依頼のメールを出すようにしました。
それが4週ほど続いた後のある週、稲垣さんはこの水曜日のメールを出すのを忘れてしまいました。金曜の昼になって稲垣さんはそのことに気づきましたが、稲垣さんはこのように考えました。
「まあ、今まで4週間続けてきたし、言わなくてもみんな気を利かせて提出してくれるだろう」
しかし、実際に提出してくれたのは30名中12名。提出率は半分にも届きませんでした。当然、部長から「いつもの週報は?」と言われ、集められていないことを知って叱られてしまいました。
たしかに12名は
「今までも4回送ったし、稲垣さんから連絡ないけど今週も提出したほうがいいんだろう」
と判断しました。しかし残りの18名は
「依頼がないから、送らなくていいか」
と判断しました。
多くの人は、判断を迷ったときに無意識に都合よく解釈して「ラクな方の選択肢」を選ぶようです。特に一般に営業の仕事は忙しいですから、「週報を書く手間が省ける」選択肢は、魅力的な悪魔の囁きにも映ったことでしょう。
ただし、着目すべきは、稲垣さん自身も「ラクな方の選択肢」を選んでいる点です。
金曜日の昼に連絡漏れに気づいたのなら、すぐにでもメールを出すという選択肢もあったはずです。そうすれば、もっと提出率は上がったはずです。しかし、連絡漏れについての謝罪がいやだなあとか、いまさらメール書くの面倒くさいなあといった心理が、「提出してくれるだろう」という都合の良い解釈を導いたわけです。
このように、仕事においてコミュニケーションを起因に起こるミスやトラブルの一部は「お互いの都合の良い解釈」が原因で起きるのです。
私もコンサルティング会社にてさまざまなプロジェクトに関与してきて、大小さまざまなミスやトラブルを経験してきましたが、振り返ってみると、このパターンに当てはまることがいくつも見当たります。
一方だけが都合よく解釈するのであれば、もう一方が問題の悪化を食い止めることができます(優秀なコンサルタントはたいていこれができます)。しかし、それが双方になることで、重傷レベルの怪我に拡大していくのです。
直接的には稲垣さんの連絡漏れが原因ですから、まずは「水曜のメール送付を(プログラムを組むなどして)自動化する」といった改善は必要です。しかし、これだけでは他の仕事で同じようなシチュエーションになった場合に同様のトラブルを避けることができないでしょう。
たとえば私などは、稲垣さんのような事例をチーム内の勉強会で共有して議論してもらい、「判断が必要な場面では安易に都合の良い選択肢を選ばない」姿勢を定着させようと試みています。
直接的な再発防止策だけでなく、こういった根本的なところにもアプローチしていくことが、応用力のある改善には求められるのだと思います。
上司や顧客に違和感・不安感を与えない、美しい「箇条書き」の作り方
文章や文書を分かりやすく作るうえで「箇条書き」は不可欠です。
たとえば、
今日は営業会議に出て、得意先X社に行って商談して、Y社向けの提案書を作って、夜は部内の飲み会に参加。
といったダラダラした文章を
【今日の予定】
・営業会議への参加
・X社への来訪・商談
・Y社向けの提案書の作成
・部内の飲み会への参加
というふうにスッキリ見やすくすることができます。拙著「思考整理のキホン」でも箇条書きの活用について解説しています(←宣伝)。
しかし、この箇条書き、ただ並べればよいというものではありません。私もよく上司・先輩に指導されましたが、ときおり「美しくない箇条書き」が散見されます。
たとえばこのようなケースです。文書作成に慣れていない若手の資料ではよく見られます。
【売上低下の原因】
- 魅力的な商品がないこと
- 店員の接客スキルが低いため
- プロモーション(販促)の不足
見事に文末がバラバラです。
上記の例であれば、たとえばこのようにするべきです。
【売上低下の原因】
- 魅力的な商品がないため
- 店員の接客スキルが低いため
- プロモーション(販促)が不足しているため
こういうのもよいかもしれません。
【売上低下の原因】
- 魅力的な商品の不足
- 店員の接客スキルの不足
- プロモーション(販促)の不足
いずれにせよ「文末を揃える」ことが、美しい箇条書きへの第一歩です。
もちろん「中身さえよければ、多少の言葉づかいなんて気にしない」という方もいます。しかし一方で「気にする」という方も一定数いるのです。
神は細部に宿る、です。
文末がバラバラなのが気になってしまって中身に集中できない方もいます。そこで「なんで、これ、揃ってないの?」と話の腰を折られ、プレゼンのペースを崩される、などということもありえます(経験者談)。いくら中身が良くても、そんなことでプレゼンがボロボロになってしまうのはもったいない限りです。
そして、細かい点にもきちんと配慮している点に気づき、書き手に敬意を払う方も確実にいます。私なんかが周囲を見る限りでも、こういう文末に気を配れる人ほど、やはり他の部分も丁寧なように感じています。
気をつけるだけで直せる内容ですから、それで数%でも評価を守る or 高める可能性が増えるのなら、それは着実にやっておきたいところです。
他に、箇条書きにおける「ふぞろい」としては以下のようなタイプがあります。
①「品詞」が揃っていない
【健康に必要な3要素】
- 運動をする
- 栄養の摂取
- 休養を取る
のようなケースです。文末に動詞と名詞が混在しています。これは2個目を「栄養を取る」のようにに変えて動詞に統一すべきでしょう。
②「レベル感」が揃っていない
- 柴犬
- チワワ
- ダックスフンド
- 猫
のようなケースです。最初の3つは犬の具体的な品種なのに、最後が「猫」と大きなレベルで書かれています。事前に内容を整理できていないことがまるわかりです。
③「順序」が揃っていない
【サラダを作るために必要な行動】
- 野菜を洗う
- きれいに皿に盛り付ける
- 食べやすい大きさに切る
のようなケースです。本来は「洗う→切る→盛る」が自然な流れのはずですが、そうなっていないために妙なひっかかりを感じます。「並び順が変なのは、なにか意味があるのかな…?」などと気になりだしたら、もう中身には集中できなくなるでしょう。
「(飛行機内で)トレーが汚れているのをみて、お客様はジェットエンジンも汚れている(=安全管理がずさん)と想像するかもしれない」
といった記述が出てきます。人も会社も、すべての実力や品質を見ることができない以上、限られた部分を見て全体を評価するしかありません。そして「箇条書きの丁寧さ」も、そんな限られた部分の一部となってくるはずです。
読み手である顧客や上司に違和感や不安感を抱かせないために、まず「箇条書きを揃える」ことを意識してみてはいかがでしょうか。
自著の宣伝。こちらの記事↓もご参考ください。
組織の意思決定を高速化する「ディスカッション・ペーパー」は「無言のファシリテーター」
■資料がない会議=まとまらない会議
今回は、コンサルティング会社などで用いられている「ディスカッション・ペーパー」について、少し述べてみたいと思います。
たとえばみなさんが仲間と旅行に行くとして、その行き先や旅程を決めるとき、ツアーのパンフレットなどを見ながら話し合うと思います。参考になる資料がないと、なかなか話がまとまりません。
会社での会議も同じで、何かを話し合う際には、話し合いのための資料があったほうが、議論がまとまりやすくなります。
逆に、特に抽象的なテーマの場合、手ぶらで会議に臨んでしまうと、話があちこちに飛散しまとまらず、時間が来ても結論が出ない、いろいろ意見が出たけど整理しきれない、といった事態になります。
そうなると、会社レベルではライバル企業に比べてスピード感=競争力を失うことになり、みなさん個人レベルでは、不要な残業とストレスが膨れ上がることにつながります。
もちろん、企画会議であれば企画書を、経営陣への報告会であれば報告書を、と当然に資料が用意される会議もあります。しかし、それ以外の会議では「作る人が決まっていない」「作り方がわからない」「エラい人が出るわけじゃないから、なくても怒られない」といった心理が阻害要因となり、資料が作られることはあまりないようです。
■コンサル会社では必ず資料を作って会議に臨む
一方、コンサルティング会社では多くの場合、議論のための参考資料を作って会議に臨みます。私も、社内の会議であっても「手ぶら会議」はほとんど経験したことがありません。
たとえば「来年の営業計画について、とりあえず意見を出し合おう」のように、あまり話が詰まっていない初期段階においても、インプット(参考)になりそうな情報や議論のポイントを整理した資料を誰かが用意してくることがほとんどです。
こうすることで、旅行のパンフレットと同じで議論がしやすくなり、スムーズに話し合いを進むのです。
また、コンサルティングの営業においても、お客様企業の状況や課題を整理した討議資料を事前に作成しておき、それを用いながらお客様の発言を促し、情報を引き出します。そして、その情報をもとに、提案内容に磨きをかけていきます。もちろん、受注後のプロジェクト中においても、同様に討議資料が大活躍します。
※お客様と討議するための資料の一例(イメージ)
この資料を、議論のための紙ということで「ディスカッション・ペーパー」と呼んでいます(学問や研究の世界でディスカッション・ペーパーと言うと「論文」みたいな意味合いがありますが、それとは異なります)。
■「会議本」「資料本」はあったが「会議資料本」はない?
ディスカッション・ペーパーは、言ってみれば「無言のファシリテーター」です。用意しておくことで、議論の脱線を起こりにくくしたり、意見やアイディアを引き出すことができます。会議の生産性を上げるうえでは、ディスカッションペーパーの準備が不可欠なのです。
※社内会議のたびにいちいち資料を作るのは大変、という意見もあるかもしれません。しかし、あまり凝ったものを作る必要はありません。「議論を促す」という目的さえ達成できるのなら、論点を書き出した簡単なメモ書き程度でもよく、それでも十分に効果は見込めます。
ただ、書店などを見渡す限り「ディスカッション・ペーパーの作り方」を説いた書籍はあまり見当たらないようです。「会議本」、すなわち会議を円滑化するファシリテーションのノウハウを記した本はたくさんあります。また「資料本」、すなわち説得力があって分かりやすいプレゼン資料の作り方を記した本はたくさん見かけます。
しかし、議論を触発し、会議や意思決定を円滑化する(そして皆さんの残業とストレスを減らす)「会議資料本」なるものは、あまりなかったのではないかと思っています。
また、「ファシリテーション」の解説書は多いのですが、進行役としての「仕切り方」を中心にしており、瞬発力や整理力のいる、なかなか難しい役割ではないかと思っています(私も苦手です…)。それよりは、議論を促す資料をあらかじめ用意しておくほうが難易度は低いと考えています。
というわけで、いずれ、そのようなディスカッションペーパーの考え方や作り方を、自分の経験をふまえつつ詳説していければと思います。ご期待下さいませ。
自著の宣伝。こちらの記事↓もご参考ください。